2019年2月28日木曜日
4月14日九皐会例会『忠度』
舞台のご案内を申し上げます
九皐会の四月定例会で「忠度(ただのり)」を致します。
これは世阿弥作の修羅能の中でも傑出した作品です。平忠度は清盛の末弟ですが、都の兄弟たちから離れて熊野で育ち、和歌を藤原俊成に学んだ異色の存在です。前段で年老いた海士人となり、歌枕の地としての須磨の風光を愛で、後段では忠度の往時の姿で、一の谷で討たれた有様を顕すのですが、ワキにかつて俊成の身内にいて歌を修めた僧を配し、文武二道と言いながら、歌道に偏る忠度の執心をどっしりと受け止め描いています。
行き暮れて木の下蔭を宿とせば
花や今宵の主ならまし
忠度が一の谷の合戦に臨んで、箙(えびら)に忍ばせた一首は、戦いに明け暮れて落魄の身となっても、そこに身を寄せるべき花の存在を歌っています。忠度と同様、世阿弥を取り巻く武士たちの中にも、そのような人が多くいました。世阿弥は舞台上に表される一期一会の美しさを花に例えていますが、この曲はその芸能論を見事に集約した作品となっています。
若い演者が真直ぐに演じて華やかな良い舞台となることの多い曲です。しかし前シテが老人であることから、例えば世阿弥の後援者と考えられる今川了俊が、引退後に和歌や禅に打ち込んだことなどを思わせて、還暦を過ぎた私の歳で取り組んでも、余りそうな奥行きがあるのではと思います。
春の盛りの頃、是非ご来場賜わりますよう、ご案内申し上げます。
中所 宜夫
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