二年前に創作した能『中尊』を3月11日に福島のお寺・安洞院の本堂で小規模ながら致します。
安洞院の横山俊顕さんは、昨年お父様の後を受けてご住職になられました。俊顕さんとの出会いは平成12-3年頃に岐阜県多治見市で催した「能楽らいぶ『融』」の時です。源融の歌「みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」は有名ですが、横山さんの安洞院はすぐお隣にある文知摺観音を管理なさっていて、融のお墓を京都の清涼寺から分けてもらい、融が陸奥国の按擦使で赴任した際に地元で見染めたと伝えられる虎女と二人のお墓を並べてお弔いしている、そういうご縁で、福島からはるばる岐阜の多治見までいらしていたのです。
『中尊』のワキの詩人のモデルである和合亮一さんとの出会いもこの安洞院でした。
俊顕さんとのご縁により平成17年に『融』の能楽らいぶをやり、翌18年に『光の素足』をしたのですが、らいぶの導入部で童話「ひかりの素足」の朗読を安洞院の檀家である和合亮一さんに、朗読に挿入しての如来寿量品の読経を俊顕さんにしていただきました。
『中尊』は一昨年の九月に盛岡の一ノ倉邸での「中尊寺ハスを愛でる会」で初演しました。八月に一ノ倉邸に行き、中尊寺蓮のお話しを伺い、それまで震災の鎮魂を能でやらなければと、石牟礼道子さんの詩「花を奉る」だけ抱えて、気持ちばかり前のめりになっていた私に一つの道を与えてもらいました。その後の僅かの期間で辛くも作り出された作品です。
震災後三年の段階での曲であり、今回は舞台も変る事もあり、少し改作しなければいけないと思っていたのですが、稽古をしてみるとこれがなかなか直し様がないのです。一度作り上げて世に送り出した作品と言うものは、なかなか自分の思うようにならないものです。
『中尊』はこれまで4-5回の「能楽らいぶ」公演を行っています。今回は、能楽らいぶに「鎮魂」の場を与えられた事を期に、始めて面装束を着けて公演致します。