今回は、他でもない福島の地でしかも三月十一日に公演するに当り、もう少し本格の能の形に近付けてみたいと思い、面装束を付けての公演となりました。お寺の本堂ですので、お囃子は笛のみ、地謡も四人で後見を兼ねる形で致しました。
公演後に書いていただいたアンケートには、「難しくてわからなかった」と言う感想もありましたが、「感動した」「涙が流れた」「鎮魂にふさわしく、心が安まった」「祈りと花の力をありがとうございました」など、概ね嬉しい言葉が並んでいます。
写真を何枚かご紹介します。お客様の写っているものが何枚かあって、皆様のお顔がとても一生懸命見て下さっていて良いのですが、色々と問題もありますので、ここでは私だけが写っているものに致します。
内陣の裏から登場します。面装束は観世九皐会からお借りしました。面は「霊女」です。右手に数珠、左手には蓮の実を持っています。
二枚目の写真は、その蓮の実を地蔵の祠に捧げて祈っている場面です。
震災後、福島から岩手へ子供と共に避難しながら、三年目に子供だけが福島に戻ってしまった、その子の行く末を案じてお地蔵さまにお祈りしています。
この蓮の実ですが、本物の中尊寺蓮の実です。一昨年、盛岡の一ノ倉邸で初演した折に、記念に頂戴したものです。
蓮の花を本堂正面の一輪挿しに捧げました。石牟礼道子さんの詩「花を奉る」の謡に乗せて動いています。
「かの一輪を拝受して、寄る辺なき今日の魂に奉らんとす。花や何。人それぞれの涙のしずくに洗われて咲き出ずるなり。花やまた何。亡き人を忍ぶ、よすがを探さんとするに、声に出だせぬ、胸底の思いあり」
そして胸底の思いを花あかりとして舞を舞います。

「この世を縁といい。無縁ともいう。その境界にありて。ただ夢のごとくなるも 花」
「かえりみれば。まな裏にあるものの御かたち。かりそめの御姿なれども・・・」

「地上にひらく一輪の花の力を念じて合掌す」
最後に、祭壇に捧げた一輪挿しの蓮の花に向って合掌して終曲となります。
この様な機会を与えて下さった安洞院のご住職に、あらためて感謝申し上げます。